2021年5月

豊かだから
施すのではない
施すから
豊かになるのだ

  爽やかな風薫る時節となりました。四季の中でも一番、木々の緑が鮮やかに輝いています。

  今月のことばは「豊かさ」と「施し」についての言葉です。1行目の「豊かだから、施す」の立場は、自己中心的な考え方からの立場で語られたもので、一方、2行目の「施すから、豊かになる」とは、相手のことを自分のこととして考える仏教の慈悲的立場で語られたことといえるでしょう。慈悲という考え方は、相手の苦しみ悲しみ(悲)を自分のこととして受け止める(慈)ことをいいます。

  また豊かさとは、経済的、時間的、精神的など、人それぞれで豊かさの考え方も違うでしょう。しかし、いずれの豊かさについて考えてみても、自分一人では実現する事はできず、人ものだけでなく、さまざまな関わり合いの中で実現できることではないでしょうか。そして、その豊かさの実現に「施す」ということが大切であると教えます。

「施し」について、仏教の教えの中で大切なもののひとつに「布施」の行いを説きます。その具体的なお話として、「貧者の一灯」という話があります。

 ある夜、お釈迦様が説法を終えて帰られる途中、道が暗かったので、信者の方々が布施をして、灯りをともしていました。そこに大風が吹いて、無数の灯りは消えてしまったけれど、貧者の女性がともしていた灯りだけは消えませんでした。不思議に思った弟子が、お釈迦様に「なぜあの灯りだけは消えないのですか」と尋ねました。お釈迦様は「あの貧者は自分も貧しいのだけれど、やっとの思いで一合の油を買い求め、私たちのために一灯を捧げてくれたのだ。だから一番まごころがこもった一灯なのだ。どんな大風もあの一灯を消すことはできないであろう。」と言われました。

 この貧者は、今日の自分の食事もままならない我が身を省みず、ひたすらお釈迦様一行の帰路を案じる気持から、一合の油を買い求め、施しをしました。その心をお釈迦様は尊ばれたのです。

  1982年に本校にも来校されたことがある、ノーベル平和賞を受賞したマザーテレサは、わずかな米とお金をもって、たった一人でインドのスラム街に入って行きました。自分の持ち物が無くなると、自らが豊かな人から施しを受け、それを持ってまたスラム街に出かけて行ったそうです。ノーベル平和賞の授賞式で「わたしが貧しい人に何かを与えたのではない。貧しい人がわたしにたくさんのことを与えてくれたのだ」と言っています。

 仏教では、布施をするときに大切なこころが3つあると教えています。

・自分がしてやったという思い上がりの気持ちをもたない。

・見返りをもとめない。

・後悔をしない。

です。まごころをこめて、相手のことを一心に思い施す慈悲の心が大切で、その行為によって自分のこころが豊かに育っていくのでしょう。だから仏道では布施をすすめるのです。本校で感謝日に行っている献金活動は、私のこころを豊かにしてくれる活動でもあるのです。                    

(文責 宗教科)