春風をもって人に接す
佐藤一斎
三年生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
今月のことばは、江戸時代の儒学者・佐藤一斎『言志四録』の中のことばです。このことばには続きがあり、「春風をもって人に接し、秋霜をもって自らを慎む」とあります。
春は、厳しい冬の寒さがやわらぎ、あたたかく穏やかな陽気で包み込むような優しさに満ちています。前半の「春風をもって人に接し」とは、春に吹く風のように穏やかに、和やかに人に接していきましょうといっています。秋霜とは秋の冷え込んだ早朝にみられる霜を指しています。後半の「秋霜をもって自らを慎む」とは、冷たい霜のような厳しさをもって自分自身を抑制し、律しなさいということをあらわしています。
私たちは、他人の過失や自分に迷惑をかけられたことには敏感で、陰口や不平を言ってしまいます。一方で、自分がしたこと、しなかったことをきちんと省みることをしばしば怠っています。お釈迦様は「他人の過失を見るなかれ、他人のしたこととしなかったことをみるな、ただ自分のしたこととしなかったことだけをみよ。(『ダンマ・パダ』)」とおっしゃっています。自分を省みることはとても大切なことです。しかし、自分を省みることもなく自分に厳しい人は、時に人にも厳しくなることがあります。なぜ人に厳しくなるのか、それは自分のルールを他人に押し付けるからです。そして、自分ができることで驕る心が生じることがあるからです。そんな自分を省みて反省するということは、苦しいものです。だから、ついつい避けてしまいます。しかし、自分の言動を省みることで、あらゆることが自分一人の力だけで成し遂げたことではなく、多くの支えがあったからだということに気づくことができます。そこに気づくことができれば、自然と他の人に接する自分の言葉遣いや行動が変わってくるのではないでしょうか。
浄土真宗の開祖親鸞聖人も自分には厳しい方でした。その厳しさの根底にあったのは、徹底した自己内観(自分と向きあっていくこと)によって見つめられた自分の中にある愚かさや無力さ人間の弱さであり、その気づきによって「あらゆるものによって生かされて生きる自分」という報恩感謝の人生を送られ、いつも弱い立場の方々に寄り添い朋に歩んでいかれました。
今月のことばの「春風をもって人に接し」にあるように、これからの春の季節に自分の言葉遣いや行動を省みる謙虚さとおかげさまの心から生まれる報恩感謝の心をもって、春風のように他の人に接して和やかで穏やかな生活を心がけていきましょう。
(文責:宗教科)