自立とは、
依存先を増やすこと
熊谷晋一郎
「今月のことば」は、小児科医であり、当事者研究でも知られる熊谷晋一郎さんの言葉です。「自立とは、依存先を増やすこと」。今月はこの言葉を通して、少し考えをめぐらしてみましょう。
「一般的に「自立」の反対語は「依存」だと勘違いされていますが、人間は物であったり人であったり、さまざまなものに依存しないと生きていけないんですよ」と、熊谷さんは述べています。出生時の後遺症で脳性まひとなり、車いす生活を送ってきた熊谷さんの言葉には、当事者としての鋭い視座とともに、〝弱さ〟への眼差しがあります。
誰もが不完全で弱さを抱えた存在であり、そもそも人間には失敗はつきもの。何かに依存しながら、時には助け、時には助けられながら生きている/生かされている。にもかかわらず、失敗した人への激しいバッシングなどから極端に失敗を恐れ、失敗しないよう、迷惑をかけないよう社会全体が委縮してしまっているのではないか。もちろん、自立しようと努力することそれ自体は、とても大切なことです。ただ、本当の自立とは、実は他者に依存していることで成り立っているのではないか。こうした事実は、能力主義や成果主義が蔓延する現在の社会にあって、ますます見えにくくなっているように思います。過剰に自助や自立を押しつける自己責任論が強く、弱音を吐きにくい今の社会にあって、熊谷さんの言葉は、私たちに何を問いかけているのでしょうか。
家庭や教育現場は、「子ども」たちが安心して弱音を言い合い、失敗を支え合える環境になっているのでしょうか。「社会に貢献すること」、「競争に勝ち抜くこと」等々、いわゆる新自由主義的な価値観を無自覚に押し付けてしまっているのではないか―。〝当事者〟の大人?として、私は熊谷さんの言葉を、このように反省的に受け止めました。
生徒のみなさんも、中高生の当事者として、多様な立場からこの言葉を受け止めてみてください。「しっかりと自立した立派な大人になれ」という世の中の「常識」を、時には疑問をもって考えてみるのもいいかもしれません。
(文責 宗教科)